自然との一体感を感じられる古民家で、里山ぐらしの素晴らしさを広めたい。
天然酵母パン「ココペリ」、古道具屋「salvage」、古民家宿「Oto」経営 高木 一真さん、彩さん
- プロフィール
一真さんは愛知県出身、彩さんは神奈川県出身
友人に紹介された古民家との出合いをきっかけに、憧れだった「里山ぐらし」を決心
2012年に美咲町へIターン移住し、古民家をセルフリノベーションして、天然酵母パン「ココペリ」や古道具屋「salvage」、古民家宿「Oto」を経営
家族構成は、夫婦と子ども3人(移住時は2人)
- 移住先
美咲町
美しい里山で出合った古民家に縁を感じて
(一真さん)若い頃に海外を旅した際、自然に囲まれた環境で心豊かに暮らす人々と出会ったことで、私も妻も里山での暮らしに憧れを抱いていました。
当時は2人とも東京で会社員として働いていましたが、コンクリートに囲まれ、満員電車に揺られる毎日に行き詰まりも感じていて。
長女の誕生後、都会の人の多さや騒音などが子どもにとって心地よくないかもと気になり始め、里山ぐらしができる場所を求めて、自治体の移住相談窓口に足を運んだり、空き家バンクを検索したりするなど本格的に動き始めました。
古民家をセルフリノベーションしたいという思いが強かったので、市町村の空き家バンクなどを活用しながら全国各地を探しましたが、なかなか「これ!」という物件に出合えませんでした。
そんな時、里山ぐらしに憧れて美咲町へ移住した友人を訪ねた際に、「古民家を探しているけどなかなか見つからなくて」と話したところ、たまたま近所にあった物件を紹介してくれて、棚田など日本の原風景が広がる美しい里山の環境、そして何よりも古民家に縁を感じて、美咲町への移住を決めました。
大変だったけど楽しめた、「マイナス」からのスタート
(一真さん)現在は住居兼パン屋として使っている古民家も、当時は傷みが激しく、水道もガスも通っていない状態。
ゼロというよりマイナスからのスタートでしたが、地域の方たちの力も借りて、3年かけてセルフリノベーションしました。
古民家での暮らしは自然とつながっている安心感があるし、間取りや材木を自分たちで決めてセルフリノベーションできることも魅力です。
(彩さん)大変なこともたくさんありましたが、当時は若くて体力もあったので、楽しみながら乗り越えました。
でも、思ったより修繕費がかかって後々「こんなはずじゃなかったのに」ということにならないよう、購入前に物件の状態をプロに見てもらい、直す価値がそもそもあるのかをまず確認してもらってから、できる部分だけ自分たちでというふうに進めることが大事だと思います。
(一真さん)里山での暮らしは、薪集めや薪割り、草刈りのような労働が生活と一体になっていて、日常的にキャンプをしているような感覚。
分からないことだらけでしたが、地域の方に積極的に質問しに行くと、みんな田舎ぐらしの知恵を持っていて助けてくれるし、結果的にそれが地域に溶け込むきっかけにもなりました。
心地よい距離感を保ちながら、必要なときには地域全体が大きな親戚のように助け合う「結いの精神」があって安心感があります。
周りの大人に見守られて、のびのび育つ子どもたち
(一真さん)地域の方の子どもに対する目がとても優しいんです。
子どもが泣いても「泣くのが仕事だから」みたいな感じで本当に寛大で、子は宝と思ってくれている。
周りの大人に大事にされているということは子どもたちにも伝わっているようで、子どもたちの情緒面でも良かったと思います。
(彩さん)私自身、長女の出産後は、生活音などを気にしないといけない都会での子育てに息苦しさを感じていましたが、移住してからはそういったストレスを感じることもなくなりました。
子どもだけじゃなく、親にとっても里山の環境はぴったりなんじゃないでしょうか。
現在、子どもたちの習い事の送迎に片道1時間かかっていて、子どもが大きくなるにつれて移動面で不便さを感じることもありますが、期間限定ですし、子どもの運動神経や豊かな感性などは里山に住んでいたからこそ育まれたものだと思うと、結果的に良かったことの方が多かったと感じています。
素晴らしい環境で訪れる人を迎えたい
(彩さん)移住して3年くらいは保育園に子どもを預けて働いていましたが、里山の環境が気に入って移住したんだし、せっかくならここで何かやりたいと思うようになり、趣味だったパン作りを生かして、2017年に天然酵母のパン屋「ココペリ」を開業。
2023年4月には棚田の中にある古民家を譲っていただき、一棟貸しの宿「Oto」も始めました。
移住して10年経ち、試行錯誤しながら自分たちのやりたいことは形にできてきたと思っています。
次は「迎える側」として、パン屋や宿を訪れた人にも素晴らしい里山の環境を知ってもらい、記憶に残るようにしたいです。
忙しい日常の中でちょっと立ち止まって、「豊かさってなんだろう」って考えるきっかけなれたらうれしいですね。